城北労働・福祉センターをめぐる公開質問

       あてさき:城北労働・福祉センター理事長 山巻毅殿
            公益財団法人東京都福祉保健財団理事長 真田正義殿
            東京都福祉保健局生活福祉部保護課山谷対策担当
     
  私たちは2020年以降、毎週のように城北労働・福祉センターの担当職員と話し合いを重ねてきました。しかしながらこの間のやりとりであきらかになったセンターの現在の在り方への疑問、またいま緊急の課題である新型コロナウイルスに対する対応についてはもはや担当職員との話し合いでは解決できない段階に達したと思われます。つきましてはセンター所長、ならびに関係機関への公開質問状として、その本意を問うことといたしました。誠意ある回答を3月1日までにいただけますようお願い申し上げます。
     
Ⅰ コロナ対策および医療について

 政府が五類への移行をあきらかにしているとはいえ新型コロナウイルスが依然として危険なものであることに変わりはありません。とりわけ生活困窮者が集住し、その多くが居住する簡易宿泊所ではトイレ、風呂、流しなどが共有であるケースが多い山谷地域では他地域以上の感染リスクにさらされています。現に一昨年、ある簡易宿泊所で集団感染が発生したことはご存じと思います。山谷地区は感染症に直撃されやすく、またそれがおよぼす被害が甚大です。城北労働・福祉センターの2階の医療相談室を結核予防会にゆだね、他ではもうほとんど行われることのない結核検診を定期的に実施しているのもその趣旨によるものであり、この危惧はセンターのみなさんも共有されているはずです。ワクチン接種をセンターで行ったことも、この危惧にもとづくものではなかったでしょうか。

 しかしながら日頃の城北労働・福祉センターのコロナ対策はとてもこの危機を想定しているとはいいがたいものです。センターの娯楽室に消毒用のアルコールの設置がなされたのは私たちの要求の結果でした。現在、センターの水飲み場とトイレに消毒用のアルコールが設置されていますが、これは私たちがやむなく置いたものです。娯楽室では二年めの二〇二一年三月になってようやく入室時に検温が行なわれるようになりましたが、センターの方は3階窓口前に検温計が設置されたものの、職員がこれを管理するでもなく、その用途が不明のような状態です。そもそもこれは本来1階入り口に置かれるべきであるはずです。

 話し合いにおいてこれらの無策を問いただしたところ、職員は「センターはコロナ対策のための施設」ではないと繰り返しています。しかし2020年以降、あらゆる公共施設(それらはコロナ対策のための施設ではありません)では利用者をコロナに感染させず、また感染者にしかるべく処置をとる方策が明示されています。職員の発言はその趨勢にも逆行するものです。現状では本カード所持者も仕事カード所持者も、37.5度以上の熱がある人は、センターでは診察を受けることができず、発熱外来に回されています。しかし現在、発熱外来も当日の受診は難しく、1−2日待機することになります。いうまでもなく簡易宿泊所での待機は感染拡大の危険が大きく、路上での待機は本人の生命を危機にさらすものであり、いずれも人道的にもまた衛生的にも到底あってはならないことです。先にあげた結核のことを考えるなら、コロナにもそれと同等の施策が準備されてしかるべきです。せめてセンターは発熱外来、もしくはそれに相当する窓口を用意すべきではないでしょうか。私たちが求めているものは最低限の施策です。

 一方、センターの医療をめぐっては昨年、降圧剤をセンターからもらっていた労働者に対し、突如、それを打ち切るという人道的見地からしても問題とせざるをえないこともありました。これらのことがおきないよう2階の医療相談室をより有効に利用すべきではないでしょうか。

 これらの件について以下の件を質問します。

1. センターはその趣旨からして「地域保健事業」として新型コロナ・ウイルスに対し積極的な対策を講じる義務がある。これまで消毒液の設置など最低限のこともやってこなかったのはいかなる理由によるものなのか。

2. 上記に書いたようにセンターに発熱外来(もしくはそれ相当のもの)を設定することはセンターの事業として最低限の義務と考えるが、これについての考えるところをあきらかにせよ。

3. 2階の医療相談室を利用できるのは本カードの所持者に限定されており、仕事カードの所持者がそこから排除されているのはなぜか。その根拠をあきらかにせよ。

Ⅱ センターの基本政策について

 センターは定款において「この法人は、山谷地区に居住する労働者の職業の安定及び福祉の増進を図り、もってこれらの者の生活の向上に資することを目的とする」としております。

 またそのホームページでは「城北労働・福祉センターは、山谷地域に居住する日雇労働者の自立・生活安定に向け、職業紹介などの就労支援や、生活総合相談、応急援護などの福祉的な支援を行っています。そのほか、健康相談や応急診療、地域保健事業、娯楽と休息の場の提供、地域環境の改善などの取組を行っています。」としています。

 いうまでもなく日雇労働者は日々雇用され、そして失業するという雇用形態下にあり、居住の状態もその形態に規定されて不安定であることを強いられています。とりわけ1990年のバブル経済の破綻以降、山谷では路上生活を強いられる労働者が激増し、路上生活者が多くを占めることとなったのは誰しも認める現実です。

 しかしこの間の話し合いで職員は「センターは日雇労働者のための施設であり、野宿者支援の施設ではない」と言明しています。これは山谷の日雇労働の実体から遊離したばかりか日雇労働者を狭く限定してゆがめるものです。

 そのためセンターの給食、宿泊などの施策が本来それを必要としている労働者は使用できず、それらを補足的にしか利用しない労働者のみを対象とするきわめて倒錯的な事態となっています。

 また自立のために働く労働者をあらかじめ支援の対象からはずすことでセンターの「日雇労働者の自立・生活安定」という目的にも反したものになっています。しかしセンターは2020年、私たちの話し合いをふまえて「仕事カード」を創設しました。これはまさに路上生活する労働者が自立するためのカードです。これを創設した趣旨をかんがみれば、先の職員の発言は実際の運営にも反したものといえます。

 センターは「仕事カード」からいわゆる本カードへの移行に2か月で就労26日と居住証明を条件とするというきわめて高いハードルを設けていますが、これもまた「日雇労働者の自立・生活安定」を妨げるものとなっていることはあきらかです。

 以下、質問します。

1. センターの定款によればその対象者は「山谷地区に居住する労働者」である。日雇労働者という形態の特殊性、またこれが社会の経済状況を最も敏感に反映するという事情を鑑みれば、ここに一時的であれ恒常的であれ路上生活を含まれることはあきらかである。にもかかわらずセンターが路上生活者を施策の対象から外そうとしているのはいかなる根拠に基づくものなのか。

2. 本カードの移行にあたっての2か月で就労26日という条件は日雇雇用保険のアブレ受給資格をスライドさせたものと思われるが、本来、これらは全く別の性格のものである。なぜこの条件を設定したのか。その根拠と理由をあきらかにせよ。

                2023年2月15日
山谷労働者福祉会館活動委員会、山谷争議団・反失実
台東区日本堤1−25−11 電話/FAX 03-3876-7073


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